続けて
賢明の寓意画を見て行きましょう。
図1 賢明の寓喩 ジョルダーノ*1 マキエッティ*2 グルニエ*3 ティチアーノ*4
最初の3点はどれも蛇と鏡を携えた典型的な賢明の寓意画ですが、最後の1点はティチアーノで、鏡はありますが、蛇がいなくて、代わりに書物の巻物が見られます。
図2 ティチアーノ『賢明に支配される時間』*5 シエナ大聖堂床面モザイク*6 リーパ『賢明』*7
このティツィアーノは通例とはまったくちがった趣で、老年・熟年・青年の三人の下に狼・獅子・犬が描かれ、上には、写真ではほとんど見えませんが、ラテン語で „Ex praeterito praesens prvdenter agit ni fvtvra actione deturpet“(過去の経験から、現在を賢明にふるまい、未来の行動を損なわず)と書かれています。この絵は、この格言があることからしても、パノフスキー*8が言うように、寓喩と言うよりはエンブレムでしょう。また上に見たようにローマ時代の戸口や門、そこから始めと終わり、さらに種蒔と収穫の守護神ヤヌスの二面が賢明のアトリビュートとされていました。寓意としての賢明は、チェザーレ・リーパの『イコノロギア』(1603)では二面、シエナ大聖堂床のモザイク(1406年頃)では三面で表されています。これはヤヌスの左右を見る二面は過去と未来を見渡しますが、さらにその裏に現在をみる顔がもう一つあると言うことから三面になったと言われています。また中世初めには時の翁サトゥルヌス(土星)がその巣窟にいると言うイノシシとライオンと蛇の三面で表されもしていました。このように時の翁とこれに打ち勝つ賢明の両者共に三面で表現されることになります。こうして見ると、この絵はその題名が述べるように「三つの顔」を持った「三つの時」、即ち過去・現在・未来が、やはり「三つの顔」を持った賢明に支配され、右、即ち未来に行くほど明るくなって、万々歳と言うことになるのでしょうか。先に見たように時の翁は賢明に退治されることになっており、ホモ・サピエンス(知の人間)と言うのは実に当を得た命名と言えましょう。また三つの顔は左からティツィアーノ自身、その息子、甥の若者がモデルとなっており、それぞれスコラ学派の教えによる記憶、知性、予見を生かした、ティツィアーノ工房および一族の賢明に支えられた未来を指し示すものとも見られています。
さて、賢明は個別的で実践的な知恵と言う位置付けですが、知・知恵・英知・叡智
Weisheit - wisdom, sageness, sagacity - sagesse, savoir, sapience
と言うと、広範な知識を伴った総合的な判断力となります。知恵の象徴であるフクロウを従えた知恵や戦争などの女神ミネルヴァ(アテナ)が真っ先に思い浮かびますが、知恵の寓喩と言うと、賢明の場合のように決まったアトリビュートはなさそうで、明かりや書物などを携えた女性で表されたりしています。
図3 知恵の寓喩
ミネルヴァ*9 ミネルヴァ*10 カルローニ*11 トゥリーヴァ*12 ルティ*13 大フラトレル*14
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*1 Luca Giordano: Allegoria della Prudenza (1682-85), Palazzo Medici-Riccardi,
Firenze
*2 Girolamo Macchietti (1535-1592): Allegoria della Prudenza, collezione privata,
Firenze
*3 François Grenier de Saint Martin: Allégorie de la Prudence (1818), Musée du
Mont-de-Piété de Bergues
*4 Tiziano Vecellio, Allegoria della Prudenza (1565): Biblioteca Nazionale
Marciana, Venezia
*5 Tiziano: Allegoria della Prudenza o anche Il tempo governato dalla prudenza
(Allegorie der von der Klugheit beherrschten Zeit), 1565-1570, National Gallery,
London.
*6 Duomo di Siena: Prudenza
*7 Cesare Ripa: Iconologia, p. 416, Prudenza
*8 „Secondo Panofsky l’Allegoria della Prudenza è l’unica opera di Tiziano che
possa essere detta emblematica più che allegorica e questo perché l’immagine è
‚una massima filosofica illustrata mediante un’immagine visiva anziché
un’immagine visiva investita di connotazioni filosofiche‘“ (E. Panofsky:
L’"allegoria della prudenza" di Tiziano: poscritto, p. 151, in Il Significato nelle
arti visive, 1962, Torino, Einaudi) (Allegoria della Prudenza (cavazza.it))
*9 Minerva, Louvre. ………………………………………………………….
*10 G. C. Eimmart: Minerva, Universität Wien.
*11 Carloni, Carlo Innocenzo (Umkreis): Allegorie der Weisheit (um 1730), Schloss
Ludwigsburg.
*12 Antonio Triva (1626-1699): Allegorie der Weisheit, Alte Pinakothek München.
*13 Benedetto Luti (1666-1724): Allegorie der Weisheit, privater Besitz.
*14 Joseph Fratrel d.Ä. (1727-1783): Allegorie der Weisheit, privater Besitz.