UA-74369628-1
Ihre Browserversion ist veraltet. Wir empfehlen, Ihren Browser auf die neueste Version zu aktualisieren.

                                                         Ingres, la sourceIngres, la source 

La source d'Ingres,  Paris  ©DeepStSky 

0357 Allegorie - allegory - allégorie - 寓喩 IV

2023/05/28 投稿

    ボッティチェッリは

ヴィーナスを慎ましい貞女として描き出しましたが、ヴィーナスの性に奔放な面は他の画家たちによって取り上げられています。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

図1 ティントレット『ウルカヌスに驚かされるヴィーナスとマルス』*1  ブロンズィーノ『愛のアレゴリー』*2 

 

 ティントレットの『ウルカヌスに驚かされるヴィーナスとマルス』では、マルスと不倫をしているヴィーナスが夫である火と鍛冶の神ウルカヌスに現場に踏み込まれ、ウルカヌスの弟ともなる軍神マルスがテーブルの下に隠れて、唸り声を立てている犬を懸命に宥めているところが描かれています。傍らの幼児用のベッドにはマルスとの間に儲けた乳児のキューピッド(クピド、エロス、アモール)も見られます。神話では裸で絡み合ったヴィーナスとマルスがウルカヌスの仕掛けた、目には見えない金網に捕えられて、呼び寄せられた神々の笑い物にされることになるのですが、この絵はその前に疑われた時のことでしょう。ヴィーナスは、ギリシャ・ローマの神話を俯瞰すると、マルス以外にも絶世の美青年アドニス、伝令神ヘルメス、酒神ディオニュソス、海神ポセイドン、人間のアンキセス…と自由奔放な愛を繰り返しています。

 メディチ家に仕えた画家ブロンズィーノがフランス王家に献上すべく、描いた官能的なヴィーナスとキューピッドは、盛り沢山の象徴を集めて、一種の謎解きとなっています。近親相姦を思わせる、この絵は当時の宮廷人に娯楽を提供したものと思われます。自分の母の乳房をまさぐる、思春期に差し掛かったようなキューピッドは愛欲や快楽の寓喩とされ、ヴィーナスの右手には息子から取り上げた恋愛に導く矢、左手にはパリスが渡した美の象徴である黄金のリンゴが配置されています。キューピッドは同じくヴィーナスの象徴・真珠のティアラを取ろうとしており、膝まずくところのクッションは淫欲、番いのハトは愛撫(または純愛・潔白)を象徴し、男児がばら撒こうとしているバラの花びらは快楽とそのはかなさを象徴したもので、道化が身に着ける鈴を巻き付けた左足、バラの棘が貫通していても気にも留めない右足も娯楽と快楽を表し、足元の二枚の仮面は欺瞞の象徴です。三人の背後にはダンテの『神曲』の地獄に描かれた、スフィンクスの少女が左手に甘い蜜が取れるハチの巣、右手に毒のある尻尾を持ち、愛の欺瞞性を寓意し、反対側では嫉妬に苦しむ老婆が頭を掻きむしって当時はやっていた梅毒の症状を呈しています。上方では砂時計を持った有翼の時の翁が青いカーテンを引きはがそうとし、その対極にいる女性は、一説では時に抗う「夜、忘却」で、しっかりとカーテンを守ろうとし、別の説では翁の娘の「真理」で、翁の手助けをしているとされます。なお時の翁は、サトゥルヌスまたはクロノスで、愛の敵対者です。結局この絵は、愛欲と欺瞞のアレゴリーと言う説が有力です。

 先に見た正義の寓喩ユースティティアは常にそのアトリビュートの天秤、剣、目隠し、王冠を備えて描かれていますが、この正義(iustitia)はローマ時代にキケロが確立した四大徳目の一つです。後の三つは賢明(prudentia)または知恵(sapientia)、勇気(fortitudo)、節制(temperantia)で、例えば賢明のアトリビュートは蛇、鏡が主で、さらに本や巻物、ヤヌスの二面の頭もあります。蛇が賢明の象徴となるのは、マタイ福音書10:16に蛇のように賢くあれと言うところから来ており、鏡はデルフィの神殿に「汝自身を知れ」とあるように、内省と内面の知識の象徴です。古典の徳目は、後にキリスト教の信仰(fides)、希望(spes)、愛(caritas)が加えられて、七大徳目として七つの原罪に対照させられることとなりました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   

図2 賢明の寓喩 ラファエッロ・ヴァンニ*3  ヴーエ*4  ヴーエ*5

 

    2008年東京上野の国立西洋美術館で開催されたヴィーナス展にバロックの画家ラファエッロ・ヴァンニの賢明(Klugheit - prudence - prudence)の寓喩の絵が出されていましたが、日本では描かれている女性はヴィーナスだと思っている人が多いようです。キューピッドはヴィーナスの息子、手鏡はアトリビュートであるため、そのようにも取れますが、この別嬪で評判の近所のお姉さん然とした赤毛の女性は、賢明のアトリビュートである蛇と鏡があるところから、その寓意像となります。子供も弓矢を持っていないところから見ると、キューピッドではなく、ただのプット(小天使 - Putte - putto, cherub - putto, angelot)でしょう。次のシモン・ヴーエの『賢明の寓意』では賢明・希望・愛が前髪しかない時の翁を退治していますが、その二点目には蛇と鏡が見られます。また時の翁は、死神のアトリビュートである砂時計と大鎌を携えています。アレゴレーゼで言うと賢明・希望・愛は酷薄な「時」に打ち勝つ永遠の存在と言うことでしょう。またこの絵は当時摂政となったフランス王妃に贈られたもので、「賢明」が王妃が摂政となって治めるべき地球に寄りかかっています。

____________________________________________

        *1        Tintoretto: Venus, Vulkan und Mars, um 1555, München, Alte Pinakothek.
        *2        Agnolo Bronzino: Allegoria con Venere e Cupido (Allegoria del Trionfo di
                    Venere),
1540-45, National Gallery, London.
        *3        Raffaello Vanni: 『キューピッドを鎮める「賢明」』(1528, ピストイア
                   県庁蔵)上述のようにこの標題は誤りで、正しくは『プットを鎮める
                  「賢明」』でしょう。

        *4        Simon Vouet: Allégorie de la Prudence, 1645-46, Musée du Berry, Bourges.
        *5        Simon Vouet: Allégorie de la Prudence, 1645, Musée Fabre, Montpellier.