このところエンブレムについて見てきましたが、
のケーススタディとして自動車メーカーやブランドのエンブレムを少し類型的に見ることにしましょう。ここで言うエンブレムとは、通常、車のフロントグリルやリアに付いているマークや名称です。このエンブレムで企業イメージや目的を象徴しようとするものですが、中には単なる企業の再認識を目的とするだけのものもあります。形象的に見ると文字と図形の結合の組み合わせが多く、いずれか片方だけの場合もあります。ブランドと言うのも、原則的には1メーカー1ブランドですが、車種ごとにサブブランドとしてエンブレムを変えるメーカーも若干あり、ここではその一部も取り上げています。なお仏語では marque de voiture とも言えます。また本稿では四輪車メーカー中心ですが、オート三輪や三輪スクーターなどの三輪車(トライクや逆トライク)などもとり上げています。ただしハーレーダビッドソン、ピアッジャなどの特定二輪車(三輪バイク)となるトライクは考慮していません。同様にオートバイなどの二輪車も除外しました。
車が登場して以来長らくボンネット先のラジエーター・マスコットと呼ばれる、立体的なエンブレムが普通でしたが、今では事故時の歩行者に対する安全性や空気力学上の障害物となる点から、多くは平面のエンブレムに取り換えられています。残っているものには、安全対策がなされて、ロールス・ロイスの通称エミリー(Emily)、エレノア、フライング・レディ、シルバー・レディなどと呼ばれる、衣を棚引かせた女性の像は、ドアを閉めると車体内に格納されるようになっていましたが、2020年に廃止されました。今なお見られる立体エンブレムは、押すと倒れるメルセデス・ベンツのスリー・ポインテッド・スターと倒れるかどうかは分かりませんが、エストニアの新興ノービー(Nobe)が発表したレトロな三輪EVの髪を棚引かせたフォクシー・レディくらいでしょうか。ロールス・ロイスのファントムをエンブレムまで含めてコピーした吉利(Geely)汽車の卓越GE(2009)、メルセデス・ベンツのCクラス前面を同じく立体エンブレムまでも忘れずにコピーした吉利・美日300(Meiri, Merrie)などもまだのこっているかも知れません。GEのエンブレムは翌年に取り換えられ、過去に類似エンブレムでトヨタに提訴された美日は、ダイムラー社にも提訴されたようですが、同社の筆頭株主となったため、問題はなくなったでしょう。なおロールス・ロイスのエミリーは、正式には滑るように疾走するスピード感の極まり、恍惚の精神(Spirit of Ecstasy)と命名されています。パリのルーヴル美術館にあるギリシャ神話の勝利の女神『サモトラケのニーケ』からヒントを得たものだと言われています。そう言えばランニング・シューズのナイキ(ニーケ)のロゴもこの彫像の片方の翼をデザインしたものでしょう。実際にモデルに立ったエレノア・ソーントン(Eleanor Thornton)は、第一次世界大戦中に地中海で乗っていた商船がドイツ海軍の潜水艦に撃沈されて亡くなっています。
図1 ロールス・ロイス、吉利、ノービー、メルセデスベンツ、吉利メリー
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図1 Rolls Royce 3D, Geely GE, Nobe Foxy Lady, Mercedes-Benz 3D, Geely Merrie 300