先に花言葉のところで象徴となる植物を見ましたが、
動物もよく象徴として使われます。ヨーロッパの紋章を例に取って見てみると、よく出てくるのは、何と言ってもライオンと鷲でしょう。百獣の王とも呼ばれるライオンは、そこから王権、また勇気や寛容を象徴する獣となりました。鷲もライオンに次いで好まれ、空高く旋回する雄姿から天空神ゼウスのアトリビュートとされました。現在のドイツやオーストリア、また米国の国章も鷲です。神聖ローマ帝国のオットー4世のワッペンには、ご丁寧にもライオンと鷲が双方共に取り入れられています。
図3 左から ラインラント=ファルツ州章*4(ライオン) オットー4世国章*5(ライオンと鷲) パッサウ市章*6(狼) ウールシュテット市章*7(梟) ローゼナウ市章*8(狐と牡牛)
同じ頂点捕食者でも原則的にヨーロッパにいないライオンと違って、オオカミは身近に恐れられた動物です。その獰猛さが強さの象徴ともなりますが、赤頭巾ちゃんでお祖母さんに変装した狼がいたり、日本では送り狼などとも言われるように油断のならない存在でもあり、狡猾や残酷、好色や貪欲の象徴ともなります。フクロウはギリシャ神話の知恵・軍事・工芸の女神アテナ、ローマ神話のミネルバの従者として、知性・学問・工芸の象徴となっています。近頃の日本では語呂合わせで「不苦労」という字を当てて「苦労をせず幸せを呼ぶ」などと言ったりしていますが、従来は不吉な死の象徴とされていました。この連想は、真っ暗な暗闇を音もなく飛ぶところから来ているのでしょうか。さて、日本では稲荷神の使いとなったり、人を化かしたりすると言われるキツネですが、西洋では賢明や狡猾の象徴となります。また精力的で獰猛な牡牛は、豊穣や太陽や月を上らせたり沈ませたりする強力の象徴とされ、ギリシャ神話では例のごとく天空神ゼウスが牡牛の姿でエウローパを誘拐したりしていますが、これは寓喩のところで見ることにしましょう。
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*4 Pfälzer Löwe
*5 Emperor Otto IV
*6 Passauer Wolf
*7 Uhlstätter Eule
*8 Fuchs und Stier Rosenow
空想上の動物も紋章などによく象徴として登場します。
図4 左から グリフィン*9 ドラゴン*10 ペガサス*11 エアレー*12 ユニコーン*13
ギリシャ神話の怪獣
グリフィン/グリフォン - Greif - griffin, griffon, grifon, gryfon, gryphon - griffon, grype
はドイツ語でグライフと呼ばれ、ライオンと鷲の両特性を備えたスーパー・アニマルです。天帝ゼウスの車を牽引して、道路を我が物顔に疾走し、周囲を席巻します。北ドイツのグライフスヴァルトの市章とされています。スェーデン・マルメ市のトラックメーカーであるスカニアや今はなくなった乗用車メーカーのサーブもグリフィンがエンブレムにありますが、これはマルメ市の紋章から来ています。西洋の
ドラゴン・竜・龍 - Drache - dragon - dragon
もよく紋章で見かけます。東洋の龍は蛇の進化したような形ですが、西洋のは蛇とは関係なく、翼のあるオオトカゲのような姿です。図はオーストリアのバート・ゴイセルン・アム・ハルシュテッター・ゼ―の町章です。ギリシャ神話の
ペガサス(天馬) - Pagasos, Pegasus - Pegasus - Pégase
は翼のある馬です。エチオピアに住むと言われた猪の牙を持った山羊のような動物
エアレー、エアリー、ジャル - 羅 - eale - 独Yale - 英yale, jall - 仏centicore
の紋章もエンブレムで稀に見かけます。図は英国王ヘンリー7世の紋章にボーフォート(Beaufort)家のエアレーの紋章を重ねた銀貨です。空想上の一角獣
ユニコーン - Einhorn, Monozeros - unicorn - licorne
も好まれる図案でしょう。図はバーデン=ヴュルテンベルク州のシュベ―ビッシュ・グミュントの市章です。
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*9 Greifswalder Greif
*10 Bad-Goiserner Drache
*11 Pegasos
*12 Beauforter Yale
*13 Schwäbisch-Gmünder Einhorn