UA-74369628-1
Ihre Browserversion ist veraltet. Wir empfehlen, Ihren Browser auf die neueste Version zu aktualisieren.

                                                         Ingres, la sourceIngres, la source 

La source d'Ingres,  Paris  ©DeepStSky 

0087 kleinster gemeinsamer Nenner 最小公分母 I

2018/01/05 投稿

 普通の文脈で和訳する場合は、「最大公約数」となります。

 英仏語では lowest (least) common denominator - plus petit dénominateur commun, moindre dénominateur commun と言います。こう聞いてもピンとくる人は、数学に関心のある人以外には、まずはいないでしょう。ここで分数*1の分母*2ではなく分子*3だけが問題となっていたり、また分数ではなく正の整数*4だったりすれば、「最小公倍数(LCM)*5」と言うことで、これなら少しは分かったような気分にもなれると言うものです。いやいや、それでもよくは分からんなどと言う人もいるかも知れませんので、ここで少し数学のおさらいでもしておきましょう。

 複数の数の大きさを比べるのにそれらが分数でなければ、一目瞭然となりますが、分数の場合は一目では分かりません。例えば、今ここに 1/3 と 3/7 という二つの分数があるとします。分数をなくすために、割り算をしてみると、それぞれ 0.333… と0.42857… となり、後者の方が大きいということが分かります。しかし、七面倒な割り算なんかをするまでもなく、もっと手軽に分数のままでも比較ができます。それは分母を共通にして、分子を比べることです。そのためにまず分母を共通にします(通分*6)。そこで両方の数の分母である 3 と 7 の公倍数を探すと 21, 42, 63, 84 … と色々出てきます。が、ここでは、その最小の数、すなわち最小公倍数があれば十分です。と言うのもそれぞれ 2 や 3 や 4 などで割れるため、全てその最小(公倍数)の 21 に帰結するからです。これが分母に来ると、最小公分母と呼ばれます。そこで両方の分数を通分すると 1/3 = 7/21 と 3/7 = 9/21 ですから、7/21 と 9/21 として分子の 7 と 9 で大きさを比べることができます。これで後の数の方が 2/21 だけ大きいということが分かりました。

    独英仏語では最小公倍数が分母に来た場合を想定しているのですが、日本では同じく数学用語を使っても、見かけは正反対の「最大公約数(GCD)*7」に変わってしまいます。どうしてこういうことになるのかと言うと、今ここで問題となっているのは、複数の事項の間で合意ないしは妥協できることがら、数種の見解の中にある類似点、数学的に言うと共通項だからです*8

 ここで、日本では複数の正の整数を念頭に置いたところから、その共通項として公約数が問題とされることになりました。例えば 12 と 30 があった場合、これらの公約数は、1, 2, 3, 6 ですから、元の二数の共通部分の中で最大の数、各見解の合意または妥協点の中で、そこまでは行けると言うところは、最大公約数の 6 となります。

 ここで西欧式に見ると、複数項を前にしてその共通部分を考えるのに、分数計算で通分することが念頭に置かれたことから、分母の最小公倍数としての最小公分母が求められることになりました。例えば 1/2, 1/3, 1/6 があるとすると、これを通分するのに公分母をこれらの分母の中で最大の 6 (最小公倍数)に合わせると、これが最小公分母となり、そこから 3/6, 2/6, 1/6 を検討することになります。ちなみに、これらの最大公約数は 1/6 です  

 ドイツのウイキペディアではどう言っているか、見てみましょう。

        Die Redewendung kleinster gemeinsamer Nenner bezeichnet einen Kompromiss oder Konsens auf niedrigstem Niveau. Im Zuge von Verhandlungen kann ein kleinster gemeinsamer Nenner mehrere Bedeutungen haben: z. B. fauler Kompromiss, außer Streit gestellte Punkte, mageres Ergebnis etc. *9
        最小公分母と言う言い方は、最低限の妥協や合意を意味する。交渉の過程においては、最小公分母は様々な意味をもつようにもなる――例えば、下手な妥協、論議からの除外項目、わずかな成果など。 

 これだけでは、なぜこう呼ばれるようになったのかと言う説明が欠けていますし、また次のように述べられているのは、筆者は間違っていると思います。そこでは、größter gemeinsamer Nenner「*最大公分母」なるものを創出して、その中で非常に小さいものをマスコミが揶揄して、最小公分母と呼ぶようになったと説明しています。もちろんのこと、何の根拠も出典も示されていません。

        Die Redewendung größter gemeinsamer Nenner bezeichnet einen Kompromiss oder Konsens auf höchstem, größtmöglichem Niveau. In Fällen, in denen eine sehr geringe Gemeinsamkeit, z. B. in Verhandlungen, erzielt wird (in denen der größte gemeinsame Nenner klein ist), wird journalistisch vereinfachend der Begriff „Kleinster gemeinsamer Nenner“ gebraucht. (l.c.)
        最大公分母と言う言い方は、最大限の、可能な限りを網羅した妥協や合意を表します。例えば交渉などの結果、わずかしか共通項が見られない(最大公分母が小さい)場合、マスコミなどではこれを簡単に「最小公分母」と呼んでいます。(同上)

 これに対して一般に使われる最小公分母の普通の見方は、次のようになります。

        ein Kompromiss; Vereinbarung, auf die sich alle Beteiligten einigen können *10
        全参加者が合意できる妥協や申し合わせ(『慣用句インデックス』)

 ただし、中には揶揄的に使われる場合も少なくありません。

        Diese oft in der Politik verwendete Metapher wird häufig mit kritischem Unterton gebraucht: ein Konsens, der das Vorhaben nicht wirklich weiterbringt, da jedermanns Interessen gewahrt sind und niemand bereit war, Zugeständnisse zu machen. Die Ergebnisse sind dann oft verwässert und bleiben hinter den ursprünglichen Erwartungen zurück. Es gibt aber auch Verwendungen mit positiver Konnotation, in der die Offenheit und Kompromissfähigkeit hervorgehoben werden. (l.c.)
        このしばしば政治的関連において使われる比喩は、批判的な意味合いを持つことが多い――誰もの関心が満たされ、妥協する者がいない場合の、あまり自分の意図することに役立たないような合意を指すことになる。その結果はしばしば水増しされたもので、本来の期待に添わないものとなる。しかしまた他に対して開かれた姿勢と妥協の用意を強調した、肯定的な意味合いの使い方もある。(同上)

 次のような場合は、中立的な用法でしょう。なお日本語的に最大公約数とした方がさらに分かりやすくなります。

        Der kleinste gemeinsame Nenner in der bunt zusammengewürfelten Demo-Gruppe war durchaus ein großes Anliegen: mehr Gerechtigkeit. (l.c.)
        様々な団体を寄せ集めたようなデモの最大公約数は、それでも「正義」と言う大きな目標であった。(同上)

        VTS-MA ist ein Verein von und für türkische Studenten und Akademiker. Für uns ist der kleinste gemeinsame Nenner unser Ursprungsland, die Türkei. Hierbei spielen ethnische Hintergründe sowie religiöse und politische Ansichten keine Rolle. (l.c.)
        VTS‐MAはトルコ人の大卒と学生による、大卒と学生のための組織です。我々にとっての最小公倍数は我々生誕の地であるトルコです。民族的背景や宗教的または政治的見解により差別することはありません。(同上)

 この場合は、全会員の最低限の一致点がトルコ生まれと言うことですから、語感的に最小公倍数とした方が分かりやすいでしょう。米国人の最小公倍数は何かと言うと、それは誕生の地が米国であると言うことです。ある非米国人の妊婦が我が子に米国の市民権を得させようとして出産間近に米国に向かいましたが、到着前に機内で出産してしました。運よく米国国籍の飛行機であったため、子供は米国国籍を取得できました。

 一般的に和訳する場合は、語感的に最大がいいか、または最小の方が適しているかで決め、また後に見るように単に共通項や共通点と言ってもいい場合もあります。

 さらに英訳などを見ていると「*最小公約数」などというのにも出会ったりしますが、これは上記の「*最大公分母」と同じように思考錯乱の結果です。二つ以上の正の整数の公約数の中での最小の数、これはどんな数を複数個とってきても常に 1 となります。こうなると目的としていることがらが全く表現されませんから、訳語として失格です。日本語で「最大公約数」となるべきところが、原語の「最小」に引きずられて、「最小公約数」となってしまったもののようですが、数学音痴の人が訳したということもあるかも知れません。

_____________________________________

        *1        Bruch - fraction - fraction
        *2        Nenner - denominator - dénominateur
        *3        Zähler - numerator - numérateur
        *4        Ganzzahl - integer (whole number) - nombre entier
        *5        kleinstes gemeinsames Vielfaches - least common multiple - plus petit commun multiple
        *6        auf einen gemeinsamen Nenner bringen - reduce to a common denominator - ramener à un dénominateur commun
        *7        größter gemeinsamer Teiler - greatest common divisor - plus grand commun diviseur
        *8        種々の意見の間にみられる共通点。「多くの発言の中から最大公約数を出す」デジタル大辞泉「最大公約数」(2017.10.20検索)
        *9        WPd, gemeinsamer Nenner
        *10       RI, kleinster gemeinsamer Nenner

 

 最大公約数(最低限の共通項)は、様々な見解が錯綜する政治の世界で常に必要とされるものです。

        Donald Tusk steht in der Pflicht. Der EU-Ratspräsident weiß, dass er auf den Reformdruck reagieren muss, den Emmanuel Macron entfacht hat. Bei seiner Rede an der Sorbonne hatte der französische Präsident vor drei Wochen so viele Visionen für die Zukunft Europas skizziert, dass so mancher in Brüssel gar nicht weiß, womit man anfangen soll. Tusk jedenfalls will Macrons Esprit nutzen, um voranzubringen, was möglich ist. […] / Im Gegensatz zu Macron ist Tusk vor allem darauf bedacht, die EU bei den anstehenden Reformen zusammenzuhalten. […] Doch wie soll sie aussehen, diese Einheit von Staaten, die in elementaren Fragen weit auseinanderliegen? Nicht nur für Tusk ist das ein Balanceakt. […] / Tusks „Leader’s Agenda“ ist so etwas wie der kleinste gemeinsame Nenner. Es tauchen all jene Themen auf, die Europa seit längerer Zeit beschäftigen, mit einem allerdings überraschend konkreten und ambitionierten Zeitplan. So soll es schon zum EU-Gipfel im Juni 2018 eine „umfassende Übereinkunft“ zur Migration geben. (SZ, T. Kirchner, A. Mühlauer, 19.10.2017)
        ドナルド・トゥスク欧州理事会議長には義務がある。トゥスク議長は、エマニュエル・マクロン仏大統領が火を点けた改革圧力に対処しなくてはならないことがよく分かっている。マクロン大統領は3週間前ソルボンヌ大学で講演し、ヨーロッパの未来に対するヴィジョンをブリュッセルのEU担当者たちがどこから手を付けて行けばよいのか分からないほどたっぷりと提示した。トゥスク議長は、この機会にマクロン大統領の精神を活かして、できることから手を付けようとしている。しかし基本的な点で相当に違いのある国々の意見の一致をどう達成できるか。これはトゥスク議長のみならず、担当者にとって相当のバランス感覚が必要とされる綱渡り作業となる。トゥスク議長の「指導者のアジェンダ」は、言って見れば最大公約数のようなものである。そこではヨーロッパを長らく煩わしているあらゆる問題が取り扱われているが、それが驚くべき具体性のある、野心的なロードマップとなっている。例えば早くも2018年6月のヨーロッパ・サミットで移民問題の「包括的合意」を目指しているのがそのよい例だ。(『南ドイツ新聞』T・キルヒナー、A・ミューラウアー)

        Auf dem G-7-Gipfel präsentierten sich die USA eher als Gegner denn als Partner. So ging es um den kleinsten gemeinsamen Nenner, aber auch der ist wichtig: […] Auf verschiedenen Seiten kämpfen die USA und die Europäer auch bei der Einführung einer Steuer für die Nutzung des Internet. Die Europäer wollen, dass Internetgiganten wie Google oder Apple sogenannte Schürfrechte erwerben müssen, wenn sie im europäischen Internetraum Daten absaugen, mit denen sie dann Geschäfte machen und Milliarden Euro verdienen. Die US-Administration ist freilich gegen eine solche Internetsteuer. Die Gespräche in Bari brachten keine Fortschritte, der kleinste gemeinsame Nenner ist eine Arbeitsgruppe, die bis 2018 Vorschläge erarbeiten soll. (SZ, Cerstin Gammelin, 15.05.2017)
        G7サミットでは米国はパートナーと言うよりは、むしろ敵対者として登場。そのため最大公約数を巡っての論議となっているが、それはそれで重要――米国と欧州諸国はインターネット使用税の導入を巡って、全く見解が分かれている。欧州としては、グーグルやアップルなどネット大手は、欧州のインターネット空間からデーターを収集して営業に資し、数十億ユーロを稼ぐ場合は、いわゆる採掘権を購入すべきであると主張している。米国政府はもちろんこのようなネット税には大反対している。バーリでの会談では進展はなかったが、最大公約数として2018年までに提案を準備するワーキンググループを設置するということで合意をみた。(『南ドイツ新聞』チェルスティン・ガンメリン)

        Der Name Karl Marx ist inzwischen so etwas wie der kleinste gemeinsame Nenner, auf den sich alle einigen können, die mit dem Turbokapitalismus hadern. Auch die Bessergestellten, ob-wohl die sich in Wahrheit nur nach dem Rheinischen Kapitalis-mus der alten BRD zurücksehnen. Als die Wirtschaft noch ge-bändigt und anständig war und die dicken Firmenbosse Zigarre rauchten. So weit ist es gekommen. (SZ, Christian Gschwendtner, 08.07.2017)
        カール・マルクスの名は、今ではターボ資本主義と悪戦苦闘する人々全員が同意できるような、最大公約数のようなものとなった。裕福な人々もまた例外ではない。実のところは、旧西ドイツのライン資本主義への郷愁にすぎないとしてもだ。あのまだ経済を統御できて、ひたすらに行儀よかった時代、恰幅の良い社長連が葉巻をくゆらしていた時代。今やこんなところにまで追い詰められてしまったのだ。(『南ドイツ新聞』クリスティアン・グシュヴェントゥナー)

 

最終更新 2021.11.30