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La source d'Ingres,  Paris  ©DeepStSky 

0057 postfaktisch - post-truth - post-vérité - ポスト事実

2016/11/30 投稿

 本年2016年度の国際的流行語の第1位は、何と言ってもオックスフォード英語辞典も採り上げたこの言葉でしょう。

 英語ではまた postfactualpost-fact とも言えますし、訳をすると、「ポスト真実」と言ってもよく、また「脱真実」や「脱事実」、さらに「事実後」と言う邦訳もあります。筆者としてはポストモダン以後の潮流と言うこともあって、「脱」や「後」ではなく「ポスト」をつけた「ポスト真実」や「ポスト事実」が適切ではなかろうかと思います。ネットのイミダスでは「ポストファクチュアル・デモクラシー」を取り上げて「post-factual democracy。事実無根の民主主義。事実に反する、あるいは実現可能性はないが大衆受けのする主張を掲げて、選挙に勝とうとする民主主義。ポピュリズム(大衆迎合主義)とほぼ同義」と解説しています。要するに虚言を弄しても検証されるどころか、批判もされないですむということです。あの法螺吹きトランプが次期大統領に選出されたことで「ポスト事実」も単なる傾向を超えた既成事実となってしまいました。

 この言葉はもともと2004年に米国の評論家ラルフ・キーズが「ポスト真実時代――現代の暮らしの不正直と欺瞞( The Post-Truth Era: Dishonesty and Deception in Contemporary Life )」という本を書いて以来徐々に広まってきた言葉ですが、何とこの本の中で既にトランプについて述べられていますし、この概念はそもそもトランプの性格や行動を基にして出来上がったようなものです。

        Even though there have always been liars, lies have usually been told with hesitation, a dash of anxiety, a bit of guilt, a little shame, at least some sheepishness. Now, clever people that we are, we have come up with rationales for tampering with truth so we can /13/ dissemble guilt-free. I call it post-truth. We live in a post-truth era. Post-truthfulness exists in an ethical twilight zone. It allows us to dissemble without considering ourselves dishonest. (p. 12f.)
        嘘をつくことは何時の時代でもあったことではあるが、ふつうためらいや幾何(いくばく)かの不安、わずかな罪障感やかすかな恥じらい、少なくともある程度の気の弱さを伴ったものであった。今では、われわれのような頭のいい人間は、真実を改変してもそれに対する理由を考え出し、罪の意識など本の少しもないことを装うことができるようになった。著者はこれを「ポスト真実」と呼びたい。われわれはポスト真実時代を生きる。ポスト真実は、倫理的に薄明な場所に存在する。これにより何らわれわれが不誠実だと考える必要もなく、何らかの振りをして生きて行けるのである。(キーズ『ポスト真実時代』)

 本ブログでも既にトランプの言動の70%が嘘で塗り固められていることを指摘(0045 Geste - gesture - geste - 身振り手振り)してきましたが、何と12年も前にキーズがトランプの不誠実さを見抜いており、グローバル化の進展とともに取り残される大衆を引き付けるポピュリストたちの勃興を予言していたのです。

        When Trump: The Art of the Deal was published, Donald Trump claimed that 200.000 copies had been printed, that The Today Shaw planned to interview him five times, and that the issue of New York magazine with an excerpt of his book was its biggest seller /15/ ever. In fact, 150,000 copies of Trump were printed, Today interviewed him twice, and New York’s sales figures were not available at the time he made his claims. In his book, Trump called this kind of braggadocio “truthful hyperbole.” After The Apprentice became a hit, Trump claimed his television show was the season’s ratings leader (when it was actually #7) and said he was America’s highest-paid television personality. A Fortune reporter who debunked these claims, and many ohers, concluded that Trump’s boasts about himself were, at best, “loosely truth-based.” (p. 14f.)
        トランプ著『取引の技術』が20万部刷られたとドナルド・トランプは言っており、『トゥデイ・ショー』が5回トランプにインタビューしようとしたと言い、トランプの本からの抜粋を載せた『ニューヨーク・マガジン』の記事がかってないベストセラーだったと言う。事実としては、15万部が刷られており、インタビューは2回であり、『ニューヨーク・マガジン』の特ダネはトランプが言っていた時点では入手できなかった。自身の本でトランプはこの種の大法螺を「真実を秘めた誇張」と呼んでいる。テレビの『見習い』がヒットしてからは、トランプはこのショーはそのシーズンの断トツだと言っていた(実際は第7位)が、自身も米国のテレビでは最高のギャラを得ているとも言っていた。『フォーチュン』誌の記者がこの欺瞞を暴き、他にも多くの人々がトランプの自分自身に関する法螺はせいぜいのところ「ごくわずかの真実を基にしたもの」と総括している。(同上)

 まだヒラリー・クリントンが優勢であった頃、『ニューヨーク・タイムズ』など米国の主流紙も英国のEU離脱派の勝利を前にして「ポスト事実」の潮流を確認していますが、これが主流になるとは思いもよらなかったことでしょう。

Facts hold a sacred place in Western liberal democracies. Whenever democracy seems to be going awry, when voters are manipulated or politicians are ducking questions, we turn to facts for salvation. / But they seem to be losing their ability to support consensus. PolitiFact has found that about 70 percent of Donald Trump’s “factual” statements actually fall into the categories of “mostly false,” “false” and “pants on fire” untruth. / For the Brexit referendum, Leave argued that European Union membership costs Britain 350 million pounds a week, but failed to account for the money received in return. / The sense is widespread: We have entered an age of post-truth politics. (The New York Times, William Davies, Aug. 24, 2016)
        事実というものは西洋のリベラル民主主義では聖域にあった。民主主義が不首尾に終わる場合は常に、また選挙民がマインドコントロールされたり、政治家が質問に答えないような場合には、われわれは救いを事実に求める。しかしこの事実も今では合意を支える能力を失ったかに見える。ポリティファクトではドナルド・トランプの「事実」を引き合いに出した言説のおよそ70%が「概ね虚偽」、「虚偽」、「真っ赤な嘘」の範疇に属することを見出した。英国のEU離脱国民投票に際しても離脱派はEU加盟費が毎週3.5億ポンドの出費となると言っていたが、逆に英国にペイバックとなる金額は全く計算に入れていない。この感覚は広く行き渡っている――われわれは「ポスト事実」政治の時代に突入したのだ。(『ニューヨーク・タイムズ』紙)

 ドイツには砂男( Sandmann )の言い伝えがあります。夜に寝ないでいる子のところにやって来て、目に砂を撒くと、眠って夢を見るということです。そのため朝目覚めた時に目をこすって砂を払ったりするのですね。大衆受けを第一義にして、偉大なアメリカなどという甘い夢を売るトランプこそまさに現代の砂男と言えるでしょう。

        (Uns) droht eine Welt ohne gemeinsame Tatsachen. Sie zeichnet sich ab auf den Hochämtern meiner dunklen Sucht, auf Donald Trumps Wahlkampfveranstaltungen. Dort träumen sie den sanften Lügentraum von einer Mauer zwischen USA und Mexiko, von einem terrorfreien Amerika, das den IS bombardiert und endlich wieder groß und stark ist. Trump, der oberste Sandmann, hat verstanden, dass seine Wähler aus diesem Traum unter keinen Umständen geweckt werden wollen. Am vergangenen Donnerstag schenkte er ihnen auf der Bühne in Charlotte seine bislang größte, beste, schönste Lüge. "Ich werde euch immer die Wahrheit sagen", sagte Trump. (Die Zeit 36/2016. Alard von Kittlitz, 25.08.2016)
        今や共通な事実認識のない世界になる恐れがある。それは既に私の暗黒依存症の荘厳ミサ、言い替えるとトランプの選挙演説会で見ることができる。そこでは皆で米国とメキシコとの国境に壁を築くという虚言の心地よい夢を見、テロの脅威のないアメリカに夢想を至らし、イスラム国に空爆を加える、遂にやってくる再び偉大で強大なアメリカを夢に描くのである。砂男の親玉であるトランプには、彼に一票を投ずる者たちは、どんなことがあってもこの夢から目覚めたくないことがよく分かっている。先週の木曜日トランプはシャーロットの集会で今までの嘘の中でも最大最良の素晴らしい嘘をついた――「私はみんなにはいつも真実しか言わない」。(『ツァイト』紙、アラルトゥ・フォン・キッツリッツ)

 「ポスト真実」や「ポスト事実」と言う言葉は、2010年あたりから政治の分野でよく聞かれるようになりましたが、今年は一般にも普及するようになりました。

        Man muss dazusagen: Diese Wahl ist kein Triumph der Gegenaufklärung, des Klerikalen oder des Wertekonservativen. Trump huldigt keinen Werten, hat mit Religion nichts am Hut. Billiges Entertainment, taumelndes Wir-Gefühl und eine geradezu mephistophelische Lust an der Zerstörung treibt seine Anhänger an. Alles was entsteht, ist wert, dass es zugrunde geht. An Wahrheit hat Trump kein Interesse, die Wahl war für ihn eine Mauschelei, bis er wider Erwarten gewann. Das fällt seinen Fans natürlich auch auf, aber auch sie scheinen in einer postfaktischen Welt zu leben, in der einzig das Gefühl noch zählt: die Wut, das Dazugehören, die Feindschaft. (Die Zeit, Adrian Daub, 09.11.2016)
        普遍主義など意に介さないトランプの勝利について一言言っておくと、今回の勝利は反啓蒙主義、僧侶神官たち、価値保守主義者たちの勝利なのではない。トランプは価値観などは持ち合わせていないし、宗教など気にも留めていない。安っぽい娯楽、目くるめく我々意識、まさにメフィストフェレス的な破壊への情熱、これらがトランプ信奉者たちを駆り立てているのである。生起する全てのものは、また滅亡するものである。トランプは真実には興味などないし、選挙は彼にとってペテンにしか過ぎない(予想に反して彼自身が勝利するまでは、そうであった)。このことには当然のことながらトランプの信奉者たちも気づいているのであるが、彼らもまた「ポスト事実」の世界の住民なのであろう――そこでは怒り、帰属意識、敵対意識と言う感情のみが重要なのである。(『ツァイト』紙、アドリアン・ダオプ)

 今年になって英国や米国で火を噴いた「ポスト事実」現象ですが、ドイツでは既にこの数年来見られる現象で、昨年にはシリアを始めとする難民問題で一気に燃え上がりました。

        Vergangene Woche trat die deutsche Kanzlerin Angela Merkel vor die Presse, sie wirkte zerknirscht. Nachdem im heißen Herbst 2015 über eine Million Asylwerber nach Deutschland gekommen war, hatte die deutsche Regierung die Asylgesetzgebung verschärft und international Druck aufgebaut, um den Flüchtlingsstrom nach Deutschland zu drosseln. Die Zahl der Asylwerber ist mittlerweile stark gesunken. Trotzdem fordern laut einer Spiegel-Umfrage noch immer 82 Prozent der Wähler, die Flüchtlingspolitik sei „korrekturbedürftig“. Merkel stellte sich vors Mikro und sagte: „Es heißt ja neuerdings, wir lebten in postfaktischen Zeiten. Das soll wohl heißen, die Menschen interessieren sich nicht mehr für Fakten, sie folgen allein den Gefühlen.“ (Benedikt Narodoslawsky, FALTER 39/16, 2016/09/27)
        先週ドイツのアンゲラ・メルケル首相が記者会見をしたが、疲れ切った表情であった。あの2015年の熱い秋に100万人を超える難民がドイツに押し寄せた後、ドイツ政府はドイツへの難民流入を制限するため亡命法の規制を強化し、国際的圧力を高めた。今では難民申請者の数は大幅に減少した。それにもかかわらず、シュピーゲル誌の調査では未だに82%の選挙民が難民政策を「見直す必要」があると見ている。メルケル首相はマイクの前に歩み寄り、「最近は私たちはポスト事実の時代にいると言われています。そこで言っていることは、事実が問題となるのではなく、感情にのみ動かされると言うことです」と語った。(『ファルター』誌、ベネディクト・ナロドスラウスキー)

 激動の時代、事実認識の重要性がひしと感じられる今日この頃ですね。

        Von Stanisław Jerzy Lec, dem polnischen Autor, stammt die lakonische Bemerkung: "Wer den Himmel auf Erden sucht, hat im Erdkundeunterricht geschlafen." Ähnlich ist es mit all den postfaktischen Populisten, die mit einem Brett oder Parteibuch vor dem Kopf die tatsächliche Welt nicht sehen (wollen). Dabei gibt es hierzulande wahrlich genug Möglichkeiten, sich über das politische Geschehen zu informieren. (SZ, Werner Hornung, 20. 11. 2016)
        ポーランドの作家スタニスワフ・イェルジ・レッツェに由来する簡単明瞭な言辞がある――「地上の楽園を探す人は、地理の時間に居眠りしていたのだ」。顔の前に板をかざして現実の世界を見ようとしなかったり、党員証を見せびらかすことしか知らないようなポスト事実のポピュリストたちについても全く同じことが言える。実際のところ、この国では世界情勢を知ろうとするなら、本当にいろいろな仕方でできるのである。(『南ドイツ新聞』紙、ヴェアナー・ホルヌング)