神道や仏教の日本では、
セックスはある種の仏教の僧侶以外には特に禁止の対象とはなっていませんでした。そのため日本に関しては本ブログの Schimpfwort 罵倒語で言う性に関する事柄には特に否定的な意味合いはありません。天皇が宮中で行なう祭祀で性交が暗示されているように、性は豊穣や多産の源と考えられていました。同じように外国人に人気のある神奈川県川崎市のかなまら祭や他にも静岡県稲取や愛知県小牧市で行われる陽根を担いで練り歩く祭なども毎年の豊穣を祈念した性器崇拝です。日本だけではなくヒンズー教のリンガ(男根)やヨーニ(女陰)などもその意味では世界的に有名です。フランスには聖陽根( Saint Phalle )などと言う名前すらあり、中でもパリのポンピドゥー・センター前の噴水を飾った芸術家のニキ・ド・サンファル( Niki de Saint Phalle )がよく知られています。
かなまら祭
かなまら祭(川崎) © ウイキペディア(金山神社)
どんつく祭(稲取) © 稲取銀水荘
田縣神社豊年祭(小牧)
田縣神社豊年祭(小牧)© ウイキペディア(田縣神社)
古代ギリシャやローマでも陽根を屹立させた半神半獣の牧神パーン( Faun - Pan- Panまたはファウヌス)、さらに豊穣とワインの神ディオニソス( Dionysos - Dionysus - Dionysos またはバッカス 独英仏 Bacchus )の子分のサテュロス( Satyr - Satyr - Satyre )などがセックスや豊穣のシンボルで、ヴィーナスとディオニソスの息子プリアーポス( Priapos - Priapus - Priape )も同じく豊穣と生殖の神です。医学で言う持続勃起症( Dauererektion = Priapismus -priapism - priapisme )の名称はここに由来します。
Faun
Faunus Hirtengott
パーン(ファウヌス) 同左
© Rüdiger Sünner, © Pan & Syrinx
Satyr
Priapos
サテュロス プリアーポス
© wikipedia.de, © wikipedia.de
日本にはまた少数ではありますが、女陰を神体とする神社もあります。母系制社会が先行したためか、世界史的にはファルスの前の時代から豊穣や多産のシンボルとしての肥満した女性の像が至る所で発見されています。現在で最古の像は8年前にドイツのウルム近郊で発見されたホーラー・フェルスのビーナス( Venus vom Hohlen Fels )で3~4万年前の旧石器時代のもので、マンモスの牙を細工したものです。それまではその100年前にオーストリアで発見されたヴィレンドルフのビーナス( Venus von Willendorf )がおよそ2万年前と最古の彫刻品でした。日本でも数千年前の縄文のビーナスや縄文の女神など妊婦を表現した土偶がかなりの数発見されていますが、縄文時代ともなるとかなりの様式化が進んでいます。
Venus vom Holen Fels
Venus von Willendorf
縄文のビーナス
縄文の女神
ホーラー・フェルスのビーナス ヴィレンドルフのビーナス 縄文のビーナス 縄文の女神
© wikipedia.de, © wikipedia.de, © wikipedia.ja © wikipedia.ja
これに反してヨーロッパ中世のキリスト教社会では、外性器切除こそ行なわれませんでしたが、女性の性的快楽は禁止されていたため、タブー視されていました。日本などでも江戸時代の庶民の間では性がタブーとはされていなかったようですが、明治の文明開化になって西洋を見習えということでキリスト教倫理が重要視され、性もタブー視されるようになったようです。1866年にクールベ( Gustave Courbet )の描いた『世界の源( L'origine du Monde )』というヌード画がパリで一大センセーションを引き起こしました。当時としては当然のスキャンダルですが、何と今年の4月にフェイスブックがこの絵の投稿をポルノだと言って削除しています。まあまあ「知らない女の股に手を差し込んでもこちらが金持ちで有名人なら何ということもない」と豪語するトランプが大統領に選出される今日この頃、何が起こっても別に驚くこともないかも知れませんが。クールベに遅れること四半世紀でロダンが虹の女神イーリス(Iris, messagère des dieux (Figure volante), 1890/91 )を発表しましたが、脚を開いた躍動的な姿態はこれこそ生命の源泉と言うことでしょう。
Courbet: L'origine du Monde
Rodin: Iris Götterbotin
Courbet L’origine du monde, Paris; Rodin, Iris, Paris
© 2016 deepstsky.net
クールベはそこに世界の源を見ましたが、ペルーの現代彫刻家デ・ラ・ハラでは世界への門戸となります。
Tübingen ist eine liberale Studentenstadt, es gibt dort einen grünen Oberbürgermeister und eine steinerne Vagina, an solch kühnen Dingen nimmt niemand Anstoß. Andernorts würde eine riesenhafte, durchaus detaillierte Skulptur des weiblichen Geschlechts sicher zu einer Generalmobilmachung der Sittenwächter führen. In Tübingen war das Problem bisher höchstens, dass das Großwerk des peruanischen Künstlers Fernando de la Jara 13 Jahre lange allzu unbeachtet vor dem Institut für Mikrobiologie und Virologie herumstand. / Erst jetzt bekommt "Pi-Chacan", was in Peru wohl so viel wie "Liebe machen" bedeutet, die gebührende Aufmerksamkeit.
Es war Freitagmittag, als die Tübinger Polizei ein Notruf erreichte, der durch seine schnörkellose Ernsthaftigkeit bestach: "Eine Person ist in einer Stein-Vulva eingeklemmt." Bei der Person handelte es sich zielgruppengemäß um einen amerikanischen Austauschstudenten und offensichtlichen Kunstfreund. Vielleicht hatte er an Niki de Saint Phalle gedacht, die einst mit einem begehbaren Frauenkörper berühmt geworden war. Jedenfalls zwängte er sich übermütig in den Hohlraum der Vagina, rutschte ab und blieb mit den Beinen an einer Engstelle stecken. Etwa 15 umstehende Personen, mutmaßlich alles fachkundige Mikrobiologen und Virologen, konnten nicht helfen. […]
Der Künstler de la Jara sieht in der Scheide das Tor zur Welt; für den Amerikaner wurde sie zum Tor zu eher zweifelhaftem Internetruhm. […] Die Feuerwehr eilte mit fünf Fahrzeugen an den Unfallort, laut Einsatzleiter brachten sie den jungen Mann "händisch ohne Geräteinsatz" zurück ans Tageslicht. Der Student blieb unverletzt, die 120 000 Euro teure Skulptur unbeschädigt. Journalisten im ganzen Land nutzten geistesgegenwärtig die seltene Gelegenheit, Begriffe wie "Marmor-Muschi" oder "Marmor-Möse" in ihren Texten unterzubringen. (SZ, Roman Deininger, 23.06.2014)
テュービンゲンは自由な雰囲気の大学街で、緑の党の市長を担ぎ、石のヴァギナがあるが、誰も気にもしない。他所の街だったら、馬鹿でかくて、隅々にいたるまで詳細に形作られた、この女性器のオブジェに対して眉をひそめる人たちから大反対の声が沸き起こるに違いない。テュービンゲンでこのオブジェに関して問題があるとしたら、このペルーの彫刻家フェルナンド・デ・ラ・ハラの大作が13年という長い年月ほとんど人目に付くことなく微生物ウィルス学研究所前に置かれていたことぐらいであろう。今ようやくこの「ピ・チャカン」(ペルーではメイクラブの意味)がそれにふさわしいだけの注目を集めるに至った。
テュービンゲン警察に110番通報が入ったのは金曜日の正午だったが、それがまた一際飾り気のない切迫感に満ちたものであった――「石の女性器に挟まった人がいます。速く来てください」。その人とはターゲットグループから言うとアメリカからの男子交換留学生で、芸術愛好家に違いなかろう。ひょっとしてニキ・ドゥ・サンファルを連想したのかもしれない。その女性器から入り、体内を歩き回る作品は世界的に有名だから。いずれにせよこの学生は意気揚々とヴァギナの割れ目に身体を入れようとしたところ、滑ってその狭いところに大腿が嵌って動けなくなった。周りには15人ほどの、おそらく全て微生物ウィルス学専門の人たちが集まったがどうする術(すべ)もなかった。
制作者のデ・ラ・ハラにとっては膣は世界への門戸であるが、この米国交換学生にとってはインターネット上でのあまり名誉ともならない世界的有名度への門戸となった。消防署から5台が急きょ現場に駆けつけたが、指揮官の言うところでは学生を「機器を使わないでも素手で」再び陽の当たるところに救出することができた。学生に怪我はなく、12万ユーロの価値のオブジェにも損傷はなかった。このまたとはない出来事によりドイツ全土で地方新聞の記者たちは「大理石まんこ」とか「マーブルおめこ」とか言う言葉を記事に挿入しようと腐心することになった。(『南ドイツ新聞』ローマン・ダイニンガ―)
Vulva in Tübingen
Foto: Wikipedia
Vulva Rettung
Foto: dpa
おまけはニキ・ドゥ・サンファルのビッグ・ナナ(ストックホルム、1966)と我が家のスモール・ナナの置物です。
Nana, Stockholm
Niki de Saint Phalle, Jean Tinguely and Per Olov Ultvedt, Hon - En (She - Cathedral), 1966, installation view, Moderna Museet i Stockholm. Foto: frieze.com
Nana
Nana Foto: DeepStSky
(続く)
最終更新日 2017.02.14