ドイツでは
2016年3月の第2日曜日に連邦の三州( Bundesland )で州議会選挙が行なわれました。メディアでは先ほどあったアメリカのスーパー・テューズデーに習ってスーパー・サンデーと銘打ち、実質的にはメルケル連邦首相の難民受入政策の是非を問う形となり、その趨勢に大きな関心が集まりました。
戦後ドイツの政界地図を簡単にまとめてみると、国政レベル では保守のキリスト民主同盟( CDU = Christlich Demokratische Union Deutschlands )、その姉妹党でバイエルン州の地域政党であるキリスト社会同盟( CSU = Christlich-Soziale Union in Bayern、この両党は棲み分けを徹底していて、全国的にはCDU-CSUとして登場)、19世紀後半からの伝統ある社会民主党(社民党 SPD = Sozialdemokratische Partei Deutschlands )、少数政党の自由民主党( FDP = Freie Demokratische Partei )の三党が、単独政権または大連立や小連立を繰り返していました。80年代に反原発・環境保護運動・平和運動・新社会運動・新左翼などの活動家を中心とし た新たな環境党として緑の党( Grüne = Bündnis 90/Die Grünen, 90年同盟/緑の党 )が結成され、東ドイツを併呑した90年代になってからは社会民主党から分裂した左派が旧東独の政権政党であった社会主義統一党( SED = Sozialistische Einheitspartei Deutschlands )の流れを汲む民主社会主義党(PDS = Partei des Demokratischen Sozialismus )と合併し新たな左翼党(Die Linke, Linkspartei)として政界に登場しました。それゆえ基本的には、80年代まではCDU-CSU と SPD のいわゆる二大国民政党( Volksparteien )プラス一小政党、90年代まではプラス二小政党、それ以降現在まではプラス三小政党という形になります。もちろん極右政党の国家民主党( NPD = National Demokratische Partei Deutschlands )なども地域により議会に勢力を保持していたりもしますが、戦後ドイツでは5%条項でそれ以下の政党は選出されないため、国政に極右政党が進出することは ありませんでした。
今回の地方三州の議会選挙が注目されたのは、難民問題の代理国政選挙の様相を呈したからで、メルケル首相の政策に賛同 を 表明した緑の党および社民党の首班候補たちが同首相の政策に違和感を持つ同首相自身の政党候補たちを大きく引き離したり、予想を逆転して、圧勝となりまし た。これで一般住民は依然として首相の政策を支持していることが分かりますが、同時に首相の政策大反対の新たな右翼ポピュリズム政党も大勝利を連呼してい ます。この党は数年前にギリシャ金融支援などはとんでもない、ユーロ圏から追い出した方が良いと言うことを言い出した経済学者や財界人を中心に立ち上げら れた「ドイツの選択肢」党( AfD = Alternative für Deutschland )が、極右や右翼ポピュリストたちに乗っ取られたもので、旧東独を中心に社会の貧困層や中流階級の落伍恐怖症に悩む人たちを巻き込んで一大勢力となってき たものです。今回東ドイツのザクセン・アンハルト州ではほぼ25%も取り、一躍第二政党に躍進しました。
アメリカでは民主党が青、共和党が赤と二大政党が星条旗の色で分けられていますが、ドイツでは保守のCDU-CSUが黒、 SPD が赤、Grüneが当然緑、FDPが黄、Die Linkeが赤紫、新興勢力のAfDが水色となります。
選挙翌日の新聞、前日の開票直後の予想得票数
上記から数時間後の確定得票数は、多少の違いがありますが大勢としては変わらず、南部の大州であるシュトゥットガルトを州都とするバーデン・ヴュルテンベルク州の緑が若干減り、東のザクセン・アンハルト州の水色が24%を越える結果となりました。
バー デン・ヴュルテンベルク州では、福島原発事故も生々しかった5年前の選挙で緑の党が大躍進を遂げ、社民党と連立を組んでいましたが、今回は緑の党は議席を さらに増やしたにもかかわらず、ジュニア・パートナーの社民党がガタ落ちで、両党合わせて過半数を制しきれないため、混乱を招く結果となりました。またラ インラント・ファルツ州では連立政権の社民党が大勝利を博しましたが、ジュニア・パートナーの緑の党が全く振るわず、ここも新たな展開が予想されます。両 州とも従来どおりの連立で行くとすれば、少数与党となり、政権運営に支障を来たすのは、火を見るよりも明らかなため、非常な困難に直面することになりまし た。
ドイツでは連立政権をそれぞれ構成政党で区別して呼びます。現在連邦与党の連立は黒と赤のグロコ、何の略かと言うと Große Koalition(大連立)を省略したものですが、グロテスクやクロコ(ワニ)を連想させて聞くたびに異様な呼称です。バーデン・ヴュルテンベルク州や ラインラント・ファルツ州で可能性の大きいのが、赤黄緑の信号連立(Ampelkoali-tion)、可能性の低いのが黒赤黄のドイツ連立 (Deutschlandskoali-tion)または黒赤のグロコでしょう。バーデン・ヴュルテンベルク州ではしかし黄がなぜか緑との連立を毛嫌いし ているのでややこしくなります。赤は今回一般選挙民の信任の厚いことが十二分に証明された、今までのシニア・パートナーである緑の党首クレッチマン州首相 の邪魔をしたくないと言っているので、黒赤黄のドイツ連立は可能性が少なくなりました。そうすると残るのは、黒緑連立です。ヘッセン州やフランクフルト 市、ボン市やダルムシュタット市が今でも続いている黒緑連立ですが、クレッチマン州首相も党内現実派ですので、赤が潔く引くと言っているため、この可能性 が大きく浮上してきました。最近亡くなったシュミット元首相が70年代後半に率いていたのが、赤黄の社自連立で、当時の政界はまだ色分けできるほど多彩で はありませんでした。これは自に不信任投票で裏切られて崩壊し、その後長い期間保自連立が続きましたが、新世紀の前後に赤緑連立に取って変わられました。 それ以後は保自連立の後、現在のグロコが続いています。また黒黄緑を国旗の色から取ってジャマイカ連立(Jamaika-Koalition)と呼びます が、地方自治体で少数見かけられたくらいです。ザクセン・アンハルト州はポピュリストが議席を大きく伸ばしたため、グロコでは足らず、黒赤緑のケニヤまた はアフガニスタン連立の可能性が大となってきました。
バーデン・ヴュルテンベルク州連立可能性(左から黒緑・信号・ドイツ連立)
ラインラント・ファルツ州の連立可能性(上から信号・グロコ)
新聞記事はいずれも『南ドイツ新聞』2016年3月14日、15日
次に今回の困難をすでに予想した記事を南西放送局が出していたので紹介します。
arbenspiele vor der Landtagswahl in RP
Von Ampel bis Jamaika - wer mit wem?
[...] Die Umfragen sagen ein Kopf-an-Kopf-Rennen von CDU und SPD für die Landtagswahl in Rheinland-Pfalz am Sonntag vorher. Für die Wunschkoalitionen von Ministerpräsidentin Malu Dreyer (SPD) und ihrer Herausforderin Julia Klöckner (CDU), nämlich Rot-Grün und Schwarz-Gelb, reicht es aber derzeit nicht. Ein Bündnis mit der AfD haben CDU und SPD ausgeschlossen. Mögliche andere Varianten und die Chancen:
Große Koalition
Ein Bündnis aus CDU und SPD oder SPD und CDU wäre rechnerisch locker möglich. Klöckner und Dreyer wünschen sich aber andere Koalitionen bei einem jeweiligen Wahlerfolg - denn im Wahlkampf sind sie politische Gegner. Dreyer hat ausgeschlossen, mit der SPD als Juniorpartnerin der CDU weiterzumachen. Für einen solchen Fall wird in Mainz häufig SPD-Landesschef Roger Lewentz genannt. Klöckner hat die Frage der Juniorpartnerin bisher offengelassen. Ihr Ziel ist jedoch, Regierungschefin zu werden.
Jamaika
[...] Während CDU und FDP eine Koalition favorisieren, müssten die Grünen mitmachen wollen. Sie haben sich die Türen offengehalten. Ob eine solche Koalition stabil wäre, hinge auch davon ab, ob der Koalitionsvertrag Problemfelder abräumte. Die Jamaika-Koalition im Saarland scheiterte 2012 nach rund zwei Jahren.
Ampel
[...] Rot-Grün will ohnehin weiter koalieren, dazu würde aber noch die FDP kommen, die die bisherige rot-grüne Politik nicht unterstützen will. Auch hier gilt: Die Stabilität hinge davon ab, ob genug Flexibilität vorhanden wäre und Differenzen klar geregelt wären. In Bremen regierte eine Ampel-Koalition von 1991 bis 1995, in Brandenburg von 1990 bis 1994 [...]. In beiden Ländern hielten die Bündnisse nicht bis zum Schluss.
Kenia- oder Afghanistan-Koalition
Schwarz-Rot-Grün sind die Farben Afghanistans oder Kenias. Ein solches Bündnis [...] wäre praktisch eine rot-grüne Koalition plus CDU. Diese Variante spielte in Rheinland-Pfalz bisher auch hinter den Kulissen keine Rolle. Es gibt sie bisher in Deutschland nur auf kommunaler Ebene.
Schwarz-Rot-Gelb [Deutschland]
[...] Praktisch ginge es um ein christlich-liberales Bündnis plus SPD - bisher eher unwahrscheinlich für Rheinland-Pfalz. Eine solche Koalition regierte zum Beispiel einige Jahre in Berlin von 1946 an [...].
Minderheitsregierung
Die Fraktionen, die eine solche Regierung trügen, hätten im Landtag keine Mehrheit. Nach der Wahl wäre dies theoretisch denkbar, wenn eine neue Regierung ohne Mehrheit wäre und von einer Fraktion oder mehreren Fraktionen toleriert würde oder für Beschlüsse Mehrheiten suchte. In Sachsen-Anhalt gab es zum Beispiel von 1994 bis 1998 eine von der PDS tolerierte rot-grüne Minderheitsregierung. Für Rheinland-Pfalz eher unwahrscheinlich. (Südwestrundfunk)
ラインラント・ファルツ州選挙前の色塗りゲーム
信号からジャマイカまで 一緒になるのはどの党?
世 論調査では、日曜日のラインラント・ファルツ州選挙は保守と社民の大接戦になるとの予想がされています。しかしマルー・ドライアー州首相(社民)とその挑 戦者ユリア・クレックナー(CDU)のそれぞれ好みの連立、赤緑または黒黄、には票数が足らない模様です。両人とも「ドイツの選択肢」党との連立可能性は 排除しています。それではどんな可能性が、どの程度の確率であるでしょうか。
グロコ
CDUと社民、または社民とCDUの大連立は、数の上からは容易くできます。しかしドライアーとクレックナーはそれぞれ勝利した場合には、別の連立を望ん でいますが、選挙戦で激しく戦った後なので、それも当然でしょう。ドライアー自身は、すでに社民がジュニア・パートナーとなるCDUとの連立は、ありえな いと言っています。そのような場合、社民の州本部長ロジャー・レーヴェンツが彼女に代わるだろうとマインツの消息通の間では取り沙汰されています。クレッ クナーはジュニア・パートナーの問題には今まで言及していません。彼女の目的は、州首相となることなのですから。
ジャマイカ
CDUと自由民主がこの連立を好んでいますが、緑の党が承知する必要があります。同党はいずれともまだ態度を決めていません。この種の連立が長続きするか は、連立契約書で問題となりそうな点が解決されているかどうかに依ります。ザール州でのジャマイカ連立は、成立2年後の2012年に挫折しています。
信号
赤緑はどのみち連立を続けたいのだが、そのためには自由民主が同意する必要がありますが、同党はいままでの赤緑の政策を支持するつもりがないことを表明し ています。この場合も長続きするかは、柔軟性が十分にあるか、政策の違いが明確に線引きされているかによります。信号連立は、ブレーメン州で1991年か ら1995年にかけて、ブランデンブルク州で1990年から1994年にかけて。両州ともに連立は期限一杯は続きませんでした。
ケニヤまたはアフガニスタン
黒赤緑はアフガニスタンやケニヤの国旗の色。このような連立は、事実上赤緑連立にCDUが加わるものです。このヴァリエーションは、ラインラント・ファル ツ州では政治の裏舞台でさえ、問題となったことはありません。また今までドイツでは市町村レベルでしか達成されていません。
黒赤黄【ドイツ】
事実上CDUと自由民主の連立に社民が参加するもので、いままでラインラント・ファルツ州では可能性が少ない組合せです。このような組合せは例えば1946年からベルリンでありました。
少数与党政権
こ のような場合、政権党は州議会の多数を握っていません。選挙後、政権が過半数を確保できずに、野党から大目に見られているだけで、決定ごとに多数派を模索 する必要がある場合、理論的には可能となります。例えばザクセン・アンハルト州では1994年から1998年まで民主社会主義党が赤緑連立の少数与党政権 を支えていました。ラインラント・ファルツ州の場合、可能性はあまりありません。